芋洗いとかけて塗り絵ととく、その心は?

その心は、「自然発生的な流行がある」です

サルの集団の中に、海水で芋を洗って食べる個体が出ると、それを真似る個体も出現するという、サルにも「流行」や「文化」があることの例として有名な現象がある。

真似る個体が100匹を超えると集団全体に爆発的に広がり、さらには接触のない遠隔地にも広がる……という疑似科学的な創作のもとになったほど有名な話らしい。芋洗い現象は日本のサルで、その研究をした日本人の論文をもとに上述のあやしい話が創作されたのはイギリスの話。ヨーローッパや北米大陸に野生のサルはいないというから、霊長類の研究者にとって日本は近場でフィールドワークのできる恵まれた国なのだろう。

なんて話はさておき、塗り絵だ

のっけから少々わかりにくくて申し訳ないが、本題は塗り絵だ。

子供の頃に幼稚園で「塗り絵」、よくやっていた気がする。

「絵を描く」だと、好きな絵の真似になりがちで、子供の好きな絵といえばテレビアニメだ、結果、テレビなどに大いに影響された流行が園児たちのあいだに広がることになる。

一方「塗り絵」だと、最初は人気の画材や色の取り合いになったりするが、そのうち「うまい塗り方」を発明する子が出てきて、みんながそれを真似し出したりする。

たとえば、こんな塗り方が流行った。

名付けて「アウトライン塗り」

塗りたい部分の輪郭をぐりぐりとこのように濃いめに取ってから

塗り絵アウトライン塗り1

中身をうっすらと均一に塗るときれいに塗れるというものだ。

塗り絵アウトライン塗り2

子供の手先では端から均一に濃く塗ろうとすると勢い余ってはみ出しがちだし、丁寧に塗ったら塗ったで途中で飽きて全体を塗れないのだ。このようにアウトラインを取って中は薄く塗れば、それなりにきれいに仕上がる。なかなかの発明だ。

他にも

横倒し塗り

クレヨンを横に寝かせて側面を使って塗ると、広い面積が均一に塗れる、という発明も流行した。こんな感じだ

塗り絵横倒し塗り1

言うほど均一には塗れないし線からは必ずはみ出すが、クレヨンの先端をまじめに使って塗るよりはきれいに塗れる気がしたものである。

憧れのにじみ塗り

そして私はというと、「塗り絵を絵の具で塗りたいものだなあ」とよく思っていた。

絵の具といえば特別な画材だった。なにせ子供に絵の具と筆など持たせたらそこらじゅうを汚すに決まっている。「今日は絵の具の日」と決まった日にしか、絵の具と筆、筆洗にパレットなどは出てこない。家でも、食卓の上をきれいに片付けていらない紙やビニールを敷き詰め、親の監督のもとに絵の具を出すのが決まりだったため、その頻度は極めて低かった。その上、そういう日には「塗り絵」は必ずどこかに隠されてしまい、かわりに「画用紙」が出てくるのだ。

今にして思えば、塗り絵の紙は水を使わない画材を想定しているのか、けっこう薄い。絵の具で塗ったりしたらすぐにヨレヨレになって穴があくだろう。私など、紙の上でぐちゃぐちゃ絵の具を混ぜるように塗って遊ぶのが大好きだったのだから論外だ。

だが、こんなふうに、絵の具を紙の上で混ぜたり、にじませたり、したかったので、当時の願望を再現してみた。

塗り絵にじみ塗り

画用紙に好きな絵を描けばいいと言われるとその通りだし、絵を描くのも好きだったが、「塗り絵を絵の具で塗りたい」という願望がそれで弱まるものでもなかった。こんなふうに絵の具で塗り絵の白いところをいろんな色でモヤモヤさせたかったのだ。

いや〜、大人ってすばらしい。自由に塗り絵ができるからね。

ところで、さっきから塗っているかわいい塗り絵、何?と気になってしかたがないですよね。

と、いささか無理やりな展開であるが、

先日「大人の塗り絵」本を紹介した、松沢タカコさんの限定塗り絵なんだなこれが。

大流行の「大人の塗り絵」から選りすぐって一冊買ってみました。私のおすすめ、松沢タカコ「ハルカナ遊園地」ご紹介です。

松沢さんは現在、ホテル暴風雨のBFUギャラリーにて個展「ハルカナ遊園地〜colorful〜」を開催中。塗り絵本「ハルカナ遊園地」掲載の線画に着彩したオリジナル作品を10点、展示中。8月いっぱいしか見られないのでぜひ今のうちに!

ホテル暴風雨内のBFUギャラリーです。現在毎月の企画展示をお休みし常設室のみ公開しております。(2020年12月7日)

そしてこの個展開催を記念した「ホテル暴風雨塗り絵コンテスト」のお題がこちらの絵というわけだ。

ホテル暴風雨塗り絵コンテスト、開催中!

募集期間は2016年8月31日まで。豪華賞品もあり!

審査基準は「塗り絵をどれだけ楽しんだか」です。プロアマ問わずどなたでも応募できます。くわしくは、こちらのページを。

ホテル暴風雨&松沢タカコ 塗り絵コンテスト開催のお知らせと募集要項です。塗り絵を楽しみまくってtwitterにアップ!豪華賞品も!ふるってご応募ください!!

サルの話はどうなった?

サル、というか芋洗いの話ですが、人間界、少なくとも日本の流行はテレビなどマスコミ主導のものが多いし、「大人の塗り絵」本ブームも、出版界のヒット作がきっかけだ。

子供の世界でも、少なくとも私の幼少期は「絵を描く」ときの流行はテレビやマンガが主導していたし、現在もテレビやゲームなんじゃないかなと予想する。翻って「色を塗る」のは、一見無個性な行為だからこそ、サルが芋を洗うかのように自然に生まれる「流行」が、狭い範囲ではあっても、人間界でも観察できたのではないかと思う。

マスコミ主導の流行とて大きな視点で見れば「自然」な流行には違いないが、いわば「大型流行発生装置」による流行なので、個人の言動のみで伝播してゆく流行との間にはかなり明確に線が引けるのではないだろうか。

「大人の塗り絵」ブームも、一過性のものというよりかなり定着してきた感がある。どの絵を塗るか?ではなく、どういう塗り方をするか?という点に関しては、今後小さく狭くても、個人発の自然発生的なブームが生まれるかもしれないと思うとおもしろいなあ、と言いたかったのでした。

さて、塗り絵の続きでもしようかな。