(元?)漫画家・水樹和佳子さんとの再会
水樹和佳子の漫画が好きだ。
代表作『イティハーサ』など、もう何十回読み返したかかわからない。
だがこの作品の魅力については後において、今日は水樹和佳子さんとの思いがけない「再会」について書きます。
「再会」といっても私は単なるファン、読者で、水樹さんご本人とは一面識もないのであるが、Twitterでフォローしている人が水樹さんのツイートをリツイートしていたもので、新刊は出ないものかと気になっていた私は、「ああ、Twitterをされているのか」と見に行き、さっそくフォローした。どんなに好きな作家に対しても、自分にとって良い作品にはいずれ出会えるという妙な楽天性と生来のずぼらのため、自ら熱心にネットなどで情報収集したりはしないたちで、今まで知らなかったのだった。
行ってみると、どういうわけか、花の写真のツイートが大量にある。花といっても野に咲く花でも庭の花でも花束でもなく、フラワーアレンジメントだ。どれも上品だがありふれたものではなく、個性的な美しいものばかり。たとえばこんな。正直言ってかなり好みである。
<作品No.84 八重の百合>をショップとブログにアップしました。需要ないと思いつつ(^ ^;)。それでも『和風もいいね!と』思われましたらリツィートお願い致します。ブログ→https://t.co/VFsA0aZU5J pic.twitter.com/djDcv8bEBL
— 水樹和佳子 (@Wakarin_san) August 12, 2016
でも、なぜ花???なんか水樹さんの作ったものっぽいけど、どういうこと!?
と、リンクの貼ってあるブログを見に行ってまたびっくり。
「お花屋さん」になるのが子どもの頃からの夢で、お花も習っていたが、師範になる頃にはなぜか漫画家に。長い連載を終えたのを機に、修行の時代はここまで、あとは好きなことをしよう!とフラワーアレンジメントを習い始め、このたびシルクフラワーアレンジメントのネットショップをはじめた。
と書いてある(筆者編集)。
確かに、文庫版『イティハーサ』の解説でも、水樹さんは華道といい陶芸といい、何をするにも手を抜かず徹底して本格的にする方だ、と作家の大原まり子さんが書かれていたっけ……などと回想しつつ、
すごいなあ!と私は感動しましたよ!!だって、
未来の仕事をしている!
ちょうど先日、リンダ・グラットン著「ワーク・シフト」という本を読んだところだった。日本では2012年に出版され、世界中でベストセラーとなった本なのでご存知の方も多いと思う。
著者リンダ・グラットンさんは2014年来日時に「ほぼ日」こと「ほぼ日刊イトイ新聞」で糸井重里さんと対談をされていて、今も「ほぼ日」サイト上で読むことができる。こちらにも著書の概要がわかりやすく書いてある。
私の言葉で説明するならば、
この本は「2025年、私たちはどんなふうに仕事をして(暮らして)いるか?」「働き方はどう変わるか?」「どういう仕事が個々人にとって『いい仕事』となるだろうか?」ということについて書かれている。
「IT革命」が世の中を変えつつあることは誰もが感じているが、それが支配層と被支配層、というのもちょっと前時代的なので言い換えると、「幸せに暮らせる人」と「取り残される人」の構造を大きく変える、「文字通りの革命」になると予言している。
また、「我々が今までよりも長く生きるようになり、先進国のほとんどが高齢化し人口減少し、長く働き続けることになる」とも、「中途半端なゼネラリストは誰もが手軽に手に入れられるクラウド上の情報やサービスに淘汰され、仕事を得るにはスペシャリストになる必要がある」「だが、単一の技術を身につけてそれを一生職業にするという時代は終わる」ともある。
世の中の変化も専門技術の発達もスピードが加速するため、何年か経ったら「専門性」も最新のものにキャッチアップし、さらに加えるものはないか検討する必要がある。そのためには集中する時間がいる。ただでさえ24時間ネットに繋がり仕事の連絡もできてしまう時代で時間は細切れになりがちだから、集中のためには多くの場合仕事上のブランクも必要になる。また、エネルギー不足が深刻な問題となり、仕事からお金を得てそれを消費する喜びに価値を置くより、仕事そのものから喜びを得られるかどうかに価値を置く人が増えるだろう、とも。
つまり、「手に職」をつけひとつの仕事を一生続けるのではなく、ある仕事をして→自分の興味や仕事のブラッシュアップのため新しい勉強をして→また仕事をして(この時業種を変えるのも、同業種でより興味があり、待遇の良いポジションを目指すのもあり)→また新しいものを身につけて
という連続サイクルを、時には直接仕事のためでなくボランティア活動や私生活の充実のための「ブランク」も作りながら、古い自分・古い価値観に囚われずに行うことのできる人が、充実した楽しい人生を送れるだろう、そして「勉強する」ことに関しては、クラウド上に膨大な情報や教育システムが提供され、恵まれた裕福な人、一部の地域の人だけでなく多くの人に機会が開かれるだろう。
というようなことが(決してこれがこの本のすべてではないが、今関係があると思われる箇所の、私なりの受け取り方だとこんな感じということです)書いてある、面白い本だった。
そこへ水樹和佳子さんの転身のニュースだ。
あんな素晴らしい漫画を描けるという才能は、決して時代の変化によって古びたり色褪せるものではないと思う。ファンとしてはもちろん新作が読みたい。
だが、たぶんそんなことは重要ではないのだ。
今、これをしたいという夢を大切に、これまでの自分に囚われず、恐れずに変化する。
未来の生き方を鮮やかに見せてもらった気がした。しかも、変わり者で新しいもの好き、いつか何かトンデモナイことをやらかしそうな雰囲気の後輩ではなく、「この道ひとすじ、こだわりの職人肌」だと思っていた、あんまり話したことはないけど、のんびり優しそうなたたずまいとは裏腹な、その徹底した仕事ぶりを尊敬していた先輩に(※注:だんだん妄想が入ってきています)。
すぐれた作品に対しては、対価を払ってそれを買ったのだとしても、取引というより「贈り物をもらった」「宝物を見つけた」ように感じるものだ。私は、そうだ。
『イティハーサ』は私にとって素晴らしい贈り物だった。だが、それにさらにおまけがついていたような、プレゼントの包装紙もよく見たらとんでもなく価値のある美術品だったような、そんな気分になった。
さて、タイトルに(1)と番号がふってあることからおわかりの通り、
まだまだ書きたいことがあるので続きます。漫画との新しい出会い方について、そして『イティハーサ』の魅力について。(2)に続く!
要所にどーんと飾りたいものも、さりげなく飾れるものも、素敵なお花がたくさん!水樹和佳子さんの「アートフラワー水樹」はこちら。
水樹和佳子(2)はこちらです!