八塩折の酒と壺 ヤシオリの毒 月岡芳年

長い猫 illustration by Ukyo SAITO ©斎藤雨梟

血みどろじゃないけど血みどろの芳年

練馬区立美術館で開催中の、月岡芳年展に行ってきました。

どんな絵が出ているのかあまり情報がないまま行きましたが、かなり充実していてボリューム満点でした。

こういうのが芳年のパブリックイメージらしいです

月岡芳年は江戸末期から明治時代にかけて活躍した浮世絵師で、歌川国芳のお弟子さんです。展覧会の解説によると「『血みどろ絵の芳年』というイメージがあるが、それだけではなく、歴史画・風俗画などの傑作を残している」とのことです。

私はそこまで「血みどろ絵の芳年」というイメージを持っていなかったので少し驚きました。師匠の歌川国芳も「武者絵の国芳」として名高いですが、妖怪や動物、特に猫の絵が素晴らしいと思います(近頃の国芳の大人気も、主にこっちが理由では?)。芳年に対しても、「奇想と鮮やかな構図」が素晴らしい国芳に比べると地味でリアル寄りだけれど、妙に味のある動物や妖怪を描く人だというイメージがありました。

私はこれが好き

今回の展示では、数多くの歴史画・風俗画・美人画があり、動物・妖怪はそこまで多くなく、そして血みどろ絵はたくさんありました。何だかんだ言って「血みどろ大好きコレクション」なのではないかと思いつつ、楽しめました。

こちらの「月百姿」からは何枚か出展されていて、いずれも美しい絵でした。そのうち一枚あとでご紹介します

八塩折の酒は美味しいのか?ヤマタノオロチは水生生物?そしてヤシオリ作戦

へえ!とか、おお!と思ったことはあれこれありましたがひとつだけ。

日本の神話で、スサノオノミコトが八塩折(やしおり)の酒でヤマタノオロチを酔わせて退治するというお話がありますが、それを画題とした絵も展示されていました。

ヤマタノオロチが頭が八つある大蛇のような姿なのはおなじみですが、私の記憶では、それをやっつけるため、八つの樽にお酒を入れて、それらを地面において周りを柵のようなもので囲って、ヤマタノオロチが樽に頭を(1樽に1頭!)突っ込んでお酒を飲んで酔ったところを首を切ったという話だったと思うのです。(とりあえずwikipedia で見たら、「門」とか「塀」を立てると書いてあったけれど、地面に置くという点は共通している?)

しかし芳年の絵で、八塩折の酒はいくつもの壺に入れられて水中に置かれています(壺の上部だけ水面上に出ている)。そして海(湖か川かもしれない)からヤマタノオロチがやってきます。

これは凄くオリジナルな解釈なのか、時代的にこういうのが主流だったのか、気になったけれど特に説明はありませんでした。

もしかしたら、私が誤読していただけで、元々の神話の方が、「水の中に八塩折の酒設置」だったのかもしれません。ヤマタノオロチも、「蛇」のイメージで見ていましたが、八つの支流に分かれ氾濫する川のメタファーのようにも思えてきて、実は水生生物なのでしょうか。

八塩折の酒といえば、映画『シン・ゴジラ』では、ゴジラを追い詰めて血液凝固材を注入するという作戦が「ヤシオリ作戦」と命名されていました。

八塩折の酒はヤマタノオロチがうっかり酔っ払うほど飲んでしまう美味しい酒だと思っていたのですが、ヤシオリ作戦でゴジラに飲ませるのは血液凝固材、美味しくも何ともない「毒」です。

「八塩折の酒」が毒入りのまずい酒みたいでイメージダウンでは?酒造業界に不評なのでは?大丈夫か!?

などと思ったのをつい思い出してしまいました。(あ、ヤマタノオロチもゴジラみたいに水生から陸上生物に進化したということか?)

ちなみに、芳年の描いたヤマタノオロチ退治作戦・八塩折の酒壺は、うなぎ獲りの壺のようで、中身が美味しいとかまずいとかはあまり考えなかったです。

実物ならではの楽しみといえば

あとこの絵の兎の可愛さといったら。

「月百姿」より「玉兎」

上の画像はフリー画像をダウンロードしました。芳年の絵がパブリックドメインになっていて自由に見たり使えたりするのは便利で嬉しいですが、ネットでデータが簡単に手に入る時代はますます「実物」に価値が出てくるのかなあと(近頃美術館が混雑していることが多いし)思います。この絵の実物は、少し色が違いました。画面で見るから、印刷物をスキャンしたものかもしれないから、摺りが違うから、など考えられる理由はたくさんあります。いい絵はコピーしたっていいものだと思うけれど、コピーで失われる何かがゼロなわけもなく、実物を見にいくのもやっぱり楽しいです。

今回の展示では、「空摺り」が綺麗に見える絵が多いのにもびっくりしました。

「空摺り」というのは、浮世絵(版画)を摺るときに色をつけないで、凹凸だけをつけるエンボス加工のような手法のことだそうです。古い絵だと凹凸が失われがちだと思いますが、江戸時代の浮世絵と比べると新しいせいか、凹凸をくっきりさせる技術も向上したということなのかはわかりませんが、今回の展示ではこの「空摺り」が美しくくっきり見られる絵がたくさんありました。着物の白い半襟のところなどに使われていました。

練馬区立美術館での月岡芳年展は2018年9月24日まで開催中です。

全国を巡回して最後の展示のようです。おすすめです。