こちらは連続した記事の(2)です。(1)はこちら
出会いは文庫本
面白い漫画を読んでみたいけれど何を読んでいいかわからない、という人はけっこういるのではないかと思う。
何を隠そう、私もそうだった。
最初は友達に借りて読んだりもするが、そのうち自分で開拓してみたくなるものだ。
だが、まず評判をよく耳にする人気漫画はたいてい雑誌に連載中だ。読みたくても、漫画雑誌を買うとは、「お話の途中」の漫画ばかりが載っている本を買うということで、けっこうハードルが高い。
では次にコミックスを買う、となると、これがまた掲載雑誌ごとに「**コミックス」と分類されていて、書店に行っても何がどこにあるのかよくわからない。おまけに袋がかかっていて、中身をパラパラと確認することもできない。古書店でも同様。
そんな状況にもたらされた福音が、私の場合は「文庫の漫画」だった。
ちょうど私が漫画を読みたいと思い始めた頃に普及してきたフォーマットで、既に「名作」と言われる漫画が各社から文庫化されていた。書店で「出版社ごと」に並んでいたのもわかりやすく、店によっては袋がかかっておらず、中身を少し確認することも可能。おまけに版が小さい分、コミックス版よりも一冊あたりの分量も多く、全巻揃えてもさほど場所を取らない。
私は本が大好きで、特に文庫本は、置き場所や予算の関係もあるが、手になじんで読みやすくページをめくるリズムが程よいところを身体レベルで愛している。「文庫」のことなら、背表紙を遠目に見てもどこの出版社かわかるくらいにはよく知っている。書店でもここはホーム、とでもいう安心感があった。特にミステリは定量摂取しないと体調が悪いくらい日常的に読むので、書店に行くと色々な場所を冷やかしながら「ハヤカワ文庫」「創元推理文庫」あたりに最終的に辿り着くルートを無意識に取りがちだ。
『イティーハーサ』とは、そんな漫画初心者だった私の書店巡礼の最終地、「ハヤカワ文庫」の棚で出会った。ハヤカワなのに漫画。しかもたいへん美しい表紙で、SFと書いてある。キャラクターの絵を見ると、古代の日本のような扮装で、とにかくミステリアス。よくわからないが1巻を買ってみた。
そして今に至る。
次々読みたくなり、出かけるたびにいろいろな書店で買い揃えて行ったらしい。今も、文庫版全7冊それぞれに、異なる書店の紙カバーがかかっている。猫が破った最終巻だけカバーなし。並べて眺めれば歴史を感じる。
最終巻あとがきを読むと、掲載誌の方針が変わって連載が打ち切られ、その後雑誌も廃刊になり、コミックス書き下ろしで最終巻を出すなど、かなりの紆余曲折があったとわかる。こんなに面白い漫画なのに難しいものだが、水樹和佳子さん書き続けてくれてありがとう!早川書房よ文庫にしてくれてありがとう!という気持ちで今もいっぱいだ。
面白いものと出会う幸運を
さて、「どの漫画を読んでいいか」「どこで漫画と出会ったらいいか」という話に戻ると、文庫本好きには漫画文庫もいいが、「電子書籍」やwebもいいと思う。
まずは電子書籍の話をするが、私はkindleというAmazonの電子書籍専用端末を持っていて、使い始めたおかげで出会えた作品がかなり多数ある。
素晴らしい宝の山だとは知りながら「PCの画面で読書する気にならない」という理由で手を出していなかった「青空文庫」もそのひとつだ。「青空文庫」版の古い小説などが電子書籍化されていて、無料で楽しめる。今年は谷崎潤一郎と江戸川乱歩が没後50年、著作権切れということで、またコンテンツが大量に増える見込みだ。
kindle画面はかなり白い紙に近い。液晶画面を見続けると目や頭が痛くなるという人にはおすすめだ。電池が数週間と長持ちするので旅行に持って行くにもいい。
いくつもの面白い漫画にも出会うことができた。電子書籍はすべて冒頭の何ページかが試し読みできるので、絵やセリフを見れば、好みでない作品を回避することくらいは可能だ。1巻だけ無料というキャンペーンもよく行われる。「この漫画を買った人はこちらにも興味を持っています」というレコメンドも参考になる。
この「レコメンド」機能の精度はどんどん進歩していると思う。特に、あまり知らない分野に切り込む時にはちょうどいい。
私の場合、同じ書籍でも「小説」はもう読み始めて長く、自分の好みはよく知っているという自負がある。すでに読んだ本が推薦される率も高く、レコメンドは目に入っても見ていなかった。が、漫画はまだ未踏の地だらけなので、レコメンドに従い試し読みくらいはしてみると、たまに好きなものに出会うことができる。
売り切れがないのもメリットだ。私は「全巻大人買い」よりちょっとずつ揃える方に喜びを感じるのだが、たまたま次の巻を今日買って読みたいという日に書店にないという、紙書籍では常に背中合わせのリスクがない。場所を取らない点でも文庫本の比ではなく、購入した書籍は無制限にクラウドに保存され、好きな時に端末にダウンロードできる。
また、そうは言いつつ「紙の本が好き」だということの再確認もできた。本は何よりも内容が大事で、読む分には何ならコピーでも構わないし、(文字だけの本ならば)諳んじてしまえばそもそも本自体不要だ、くらいに思っていたが、そうではなかった。装丁を目で見て、手で本を持ち、ページをめくる。その物質としての存在感や身体に訴える感覚も自分は好きなのだと改めて気がついた。電子書籍にはまだまだ無限の可能性があるが、こうした需要がある限り、今後、趣味の贅沢品として残るのみだとしても、紙の本がゼロになることはないように思う。
紙の本を選ぶか電子書籍を選ぶかどうかはさておき、電子書籍は、専用端末がなくてもPC・スマートフォン・タブレットに対応するアプリが出揃ってきたので、「漫画(や小説)を試しに読んでみる」には手軽で最適だ。面白い作品と出会えるかは、あとは検索力といったところなのだろうか?
さて『イティハーサ』だが、紙の本で読むならばハヤカワ文庫版全7巻が現在入手可能。電子書籍版はコミックスを電子化したと思われる全15巻のものがある。Amazonではじまったばかりの、定額980円で電子書籍読み放題のサービス「Amazon Unlimited」では、全15巻のうち7巻までが読み放題対象になっている(2016年9月現在)。
ちなみにこの記事のタイトル、『イティハーサ』の主要キャラクターの一人である那智のセリフ「(生まれ変わるならば)きっとまた、出会わぬ幸福より出会う不幸を選んでしまうでしょう」をもじったもの。
『イティーハーサ』の魅力については、また次回、書きます!
水樹和佳子(3)はこちら
https://very-wild-cats.ukyo.tokyo/2016/09/10/wakako_mizuki_3/